母子ともに安全な無痛分娩

母子ともに安全な無痛分娩

〜お産を少しでも楽なものに〜

●産みの苦しみとは?
私たちは生活の中で、よく産みの苦しみという言葉を使います。お産の苦しみ、つらさを誰もが認識し、お産は人生の一大事業であるこを理解している証拠ともいえるでしょう。ただ、そのベースにはどこかで「お産は痛くて当たり前」という意識があるようです。産婦人科の専門医であり、残念ながら男に生まれついた自分としては、とても「お産は、女性だけの美徳」などとは申せません。これまで多くのお産に立ち会ってきましたが、わりと楽な顔をしている方もいれば、ひどく苦しむ方もいて、お産の痛みは、やはり男の自分には想像を超えたところにあるというのが正直なところです。

ただ、医学が進歩を遂げている中で、お産だけが昔ながらの痛みというのも、おかしな話です。そこで登場するのが無痛分娩です。ところが、この無痛分娩は、一般的に少々誤解されている向きもあるようです。それほどお産の痛みを我慢する美徳の概念が、わが国では強いのです。

ここは専門医として、お産の苦しみにおののいている初めてお母さんになられる方、また次のお子さんが欲しいのに初産で苦しまれ悩んでいる女性のために、この分娩法をご紹介いたします。

●欧米では無痛分娩、急増中 (2005年2月28日更新)
これまでお産の痛みを軽くする方法としては、ラマーズ法やソフロロジー法がありますが、これらは確実に痛みを取るのは不可能です。ここで取り上げる無痛分娩は、単純にいうと、適切な麻酔を用いることによって、出産時の痛み、緊張、恐怖感から解き放ち、お産を円滑に進めることです。

麻酔による無痛分娩には、投薬によるバランス麻酔と、硬膜外麻酔を利用した部分麻酔があります。いずれも適切に管理を行えば、母子ともに影響はありませんが、バランス麻酔では、ある程度意識が朦朧とした状態で分娩となるので、赤ちゃんを産んだ瞬間が実感できない可能性もあります。

一方の硬膜外麻酔は、子宮の収縮に関与する運動神経の働きを損なわず、痛みに関与する知覚神経だけに麻酔を行いますので、お腹のハリを軽い痛みとして、感じることがありますが、お母さんや産まれてくる赤ちゃんの意識低下や生理機能(呼吸や心臓の働き)の低下なしにお産を進めることができます。
欧米では、この硬膜外麻酔分娩が随分、浸透しています。それでは、もう少し詳しく硬膜外麻酔分娩について解説しましょう。

私たちの背中にの中を脊髄神経が走っています。
脊髄神経は内側から軟膜、クモ膜、硬膜という膜で覆われ保護されておりますが、その中の硬膜の外側の部分に細いチューブを入れ、局所麻酔薬に注入するのが硬膜外麻酔です。

この方法ですと子宮伸縮の働きが残されたまま知覚がブロックされるので痛みが抑えられるのです。もちろん、麻酔と言っても局所麻酔なので意識がなくなることもありませんから、赤ちゃんを産む瞬間も実感でき、出産後すぐに赤ちゃんを抱くことができます。
また、筋肉の緊張が低下するので分娩時間も短縮される傾向にあります。さらに分娩での疲労が少ないことから産後の回復も早くなります。

この硬膜外麻酔による無痛分娩は、わが国で、あまり知られてませんし、痛みに耐えた女性の中には「痛みがなくては愛情が湧かない」とおっしゃる方もも多いでしょう。

しかし、母性意識というものは、妊娠した時の喜び、そして陣痛を迎える日までお腹の中で大切に育んできたことで充分母性意識が芽生えるものと考えます。日に日に大きくなるお腹の中で子供が動く時、アナタは感動し、愛しく思えるならば、立派なお母さんの資格を持っています。出産は分娩時だけを言うのではありません。
妊娠から陣痛までの経過が何よりも大切と専門医である私は信じています。

初めての妊娠で分娩の痛みに恐怖を感じている方や、前回のお産が辛くてもう二度とお産はしたくないと思っている方に、無痛分娩も分娩の一つとしてお考えいただければと思っています。


新中野女性クリニック院長 海老原肇
※地域医療情報専門誌Medical Pivotに寄稿した記事です。